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東京高等裁判所 昭和49年(行コ)50号 判決

控訴人 理研電子株式会社

被控訴人 国

訴訟代理人 下元敏晴 ほか四名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

当裁判所も控訴人の本訴請求を棄却するほかないものと判断するところ、その理由は、つぎに一、および二、のとおり付加するほか、原判決書理由らんに説示されているところと同じであるから、これを引用する。

一  控訴人は、控訴人の本訴請求は本件修正申告および賦課決定の無効部分にかかる納付税金については民法上の不当利得を構成するからその利得の返還をも求めるものである旨主張する。

しかしながら、右控訴人の主張にかかる納付税金、すなわち本件修正申告および賦課決定の一部無効による租税債務の不存在部分に対応する過納税金は、被控訴人の国税徴収手続という権力的な公法的手続の過程において生じたものであつて、いわゆる公法上の不当利得たる性質を有する(この意味において、右の過納税金は私人間の経済的利害の調整を目的とする民法上の不当利得の性質を有するものではない。)のであり、そして、これが国税通則法第五六条にいう過誤納金にあたるものであつて、同法の過誤納金に関する規定が民法の不当利得の規定の適用を排除する趣旨であると解すべきことは、前記引用の原判決説示のとおりであるから、右過納税金が民法上の不当利得を構成することを前提とする控訴人の右主張は、すでにこの点において採用することができない。

二  つぎに、控訴人主張の本件過納税金の返還請求権の消滅時効の起算日がそれぞれその納付のあつた日と解すべきことは前記引用の原判決説示のとおりであるところ、〈証拠省略〉によれば、控訴人は昭和四〇年八月三一日東京国税局査察部によつて強制調査を受け、帳簿、銀行通帳および出入金伝票等昭和三八年、三九年度法入税額算出の基礎となるべき会計資料の一切を押収されたことおよびその後控訴入は右両年度法人税法違反被告事件として起訴され、同四五年一一月一〇日その控訴審である東京高等裁判所において控訴人主張内容の判決が言い渡され、そのころ同判決が確定するにいたつたことが認められる(もつとも、右強制調査が行なわれたことおよび控訴入がその主張のとおり起訴され、その主張の日に控訴審判決が言い渡され確定したことについては当事者間に争いがない。)ので、このような事実関係のもとにあつた控訴人としては、右刑事判決の確定にいたるまでは、同過誤納金の還付請求をすることが容易でない事情にあつたことが察せられないではないが、そうだとしても、それは、たんに控訴人において前記刑事事件での抗争のかたわらさらに右還付請求をすることが事実上容易でなかつたというのにすぎず、前記消滅時効の起算日を前記原判決に説示されたところと別異に解すべきいわれはない

そしてこのように解しても、控訴人主張の刑事事件判決が確定。した後消滅時効完成時までには少くとも八か月余の期間があつたことは前記諸事情によつて明らかであるから控訴入の権利行使に格別の支障があつたとはいえず、同入にとり酷にすぎることもないというべきである。

よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条および第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 畔上英治 安倍正三 唐松寛)

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